Participating with Drawing

 

「Participating with Drawing」イザベル・ダエロンとの対話

2020年12月5日 
17:00 – 18:00  プレゼンテーション
18:30 – 20:00  フランス・パリにいるイザベル・ダエロンと会場とのディスカッション(オンライン) 

イザベル・ダエロン(https://www.studioidae.com

1983年フランス生まれ。リサーチデザイナー、ENSCI-Les Ateliers卒。人間と自然資源が共存するシナリオを作ることがデザインの課題。プロダクト、都市、空間デザインなど、分野を横断し、環境問題と循環、モビリティー、パブリックスペースなどを視野に入れたプロジェクトを行っている。その他、Topique(トピック)と名付けた課題を設定することで、その解決に向けてのアイディアをかたちにしている(例えば、Topique-cielは雨の後の水たまりを鏡に見立てることで都市空間にある資源の見方を変えること、Topique-feuilles は地面に落ちた落ち葉を騒々しい屋外用掃除機で掃くのではなく風で吹いてもらうというプロジェクト)。

プレゼンテーションについて:

2019年、ダエロンはパリ市の都市デザインプロジェクトの一環で20区のブランシャール通りに、猛暑に悩まされる都市のクールダウンシステムAéro-Seine(アエロ・セーヌ)をデザインした。それは19世紀に使われていたセーヌ川につながった水道管を再利用して水場をつくるもので、当時セーヌ川の水を循環させて都市の清掃や庭園の水やりに使っていたことを参考にしたものだ。ダエロンはそれ以前からドローイングやアートプロジェクトの機会を使って都市空間の水の循環についての問題を提起していた。その作品は実にプレイフルでカラフル。一見、シリアスな問題を扱っているように見えないけれど、彼女は着々と問題の解決にむかって呼びかけを続けていた。

ー 「Aéro-Seine」のプロジェクトをどのように実現したのですか?

「Topique」[i]というプロジェクトを10年あまり続けてきました。公共空間においての日光や水や風といった自然の循環に注目したプロジェクトです。2015年にはセーヌ川のネットワークを中心としたパリの非飲料水のリサーチを始めました。このネットワークは19世紀半ばから続いていたもので、セーヌ川の水を道路掃除や緑地の水やりのために使っていたのです。そういう用途のために浄化された水を使う必要ありませんから。しかしながら20世紀になるとこの水のネットワークが十分に使用されなくなってしまったのです。このリサーチの助成金をもらったとき、非飲料水に関する三つのプロジェクトを立ち上げました。ひとつは浄化システム付きの水溜り。これは「Chantepleures(シャンテプリュール)」というじょうろがついていて、雨水を共用庭のために使うものです。二つ目はアパルトマンの共用部を掃除するためのクリーニングポイント。そして最後に夏のヒートウェーブを緩和するための公共空間のクールダウンポイント。2018年には3番目のアイディアを刷新して提案しました。パヴィリオン・デ・アルセナル[ii]が企画したパリ市内のイノベーションプロジェクトのデザインコンペに提案するためです。この装置はアエロ・セーヌという名前をつけました。幸い、このプロジェクトはパリの20区のリデザインに関するコンペで選ばれました。

ー パリ市とプロジェクトを進行するのは大変だったかと思いますが、どのように進行したのですか?

とても大変でした。パリ市に6つか7つほどもある部署と協働しなくてはならなかったのですから。あるひとつの問題が上がると、みんなを集めて、担当する人をみつけ出さなくてはいけないのです。パリでは中央になる部署があって、そのほかに全部で20区の部署があります。中央の部署はこういうイノベーティブなプロジェクトには開かれていますが、そのほかの地域を担当する部署はそうではありません。このプロジェクトはパリの現実を見るひとつの機会でした。市の技術、行政に関わる部署とのコーディネーション、ワークショップを通じて住民を巻き込むこと、企業との協働、その他いろいろです。たくさんのことを学びました。

ー もともとのアイディア「Topique」はポエティックでコンセプチュアルですよね。でも次第に公共のプロジェクトになっていく。公共空間でアイディアを共有していきたいというように思うようになっていっているのがわかります。でもコンセプチュアルなプロジェクトを実現するのは難しい。なぜなら個人的なことに思えてしまうからです。この考えをどのように実現したか、説明していただけますか?

最初は自然の循環と公共空間に必要な機能のあいだでうまくバランスをとれるものをデザインしようという考えで、水や日光や風といったトピックに注力していきました。そうしながら「Topique」というプロジェクトがだんだん組み立てられていったのです。最初はドローイングや模型や計画案から始まりました。それからアートプロジェクトや展覧会に参加するようになって、プロトタイプやインスタレーションを作っていったのです。そうしているうちに展覧会のためにつくったインスタレーションがたった数ヶ月後には壊されてしまうことに不満を感じるようになったのです。公共の空間でこのインスタレーションを実現したい。それを実現するのに10年間かかりました。と同時に技術や法規や他の会社や市の技術部と協働することを学ぶのに時間が必要だったのです。まだ学ぶことはたくさんありますが。

ー   「Topique」というアイディアはギリシャ語の「Topos」というボキャブラリーからきていると言いますが、プロジェクトで地域環境との関係を特に大切にしているのですか?

もちろんです。概念的にはグローバライズされた世界を生きるなかで地域を守ることは大切なことです。もう一方で、ポエティックな面で言えば、インスピレーションは場所から来るのです。その場所特有のこと、歴史や資源や伝統を理解しながらものや空間のデザインをするということが大好きなんです。パーマカルチャーにも興味があるのですが、とてもデザインの定義に近いと思っているのです。地域と循環に基づいたシステムという意味で。

ー 地域の環境との関係で公共プロジェクトに関わるとき、建築家や都市計画家と働くことが必須だと思いますが、そういう作業のなかでデザイナーとしてなにが大切だと思いますか?

都市プロジェクトは突然現れるものではありません。大切なことはチームをつくってプロジェクトの多様な側面を交換しあうことです。歴史、技術、社会、環境など。それぞれが適所に関わることが大切です。

ー デザインで何かの問題を解決しようとすると、どこかつまらない結果になることがあると思います。でもあなたが実践していることは面白い。システムが直接デザインに働きかけているのに、とっつきやすくて、しかも楽しい。自分のデザインがどのように見えるべきか、常に考えていることはありますか?

あらかじめこういう風に見えるべきだと考えていることはありません。ただ、場所とオブジェをどのように調和させるかを考えようとしているだけです。植生とその環境が相互に関わり合っているように。それと一般の人々に技術的なことや物事がどのように成り立っているのかをわかるようにしています。シンプルな形と色を使って。

ー あなたのドローイングの色はとても特徴がありますね。何か、色について考えていることはありますか?

私はいつもフェルトペンをつかっていて、そこから色を取っています。ドローイングはできるだけ物語的になるようにしています。あまりリアルになりすぎないように。どのドローイングもプロジェクトの夢の姿なのです。それと、私は線の連なりでドローイングを組み立てていくことが好きなんです。最初はどの色を使うか決めていません。段階的に作っていくのです。ドローイングをしているとき、リスクを取っているような感覚が好きなんです。間違っているかもしれない感覚。草の茎を描こうとして失敗して野原に展開していく。これがドローイングをしているときの自由な感覚です。色も同じように展開していきます。

ー あなたのドローイングとその結果はほぼ同じような見た目ですね。プロジェクトが始まる前にドローイングをするのですか?アイディアをドローイングにしたものがどうして現実とそっくりになるのでしょう?

このドローイングはリサーチの後に作ったものです。形、場所、オペレーションや循環などのアイディアを統合する方法を見つけた後で作ります。このドローイングが実現に役立つのです。

この方法でプロジェクトに取り組むようになったのは学生のときからです。当時はプロジェクトを立ち上げても適切な方法を見つけるのが難しかった。だから実現しそうな理想のプロジェクトを描くことから始めたのです。ひとりでプロジェクトに向かっているとクライアントをみつけたり、プロジェクトを文脈に当てはめたりすることが難しい。だから自分がやっていることを信じることも難しかったのです。ドローイングはプロジェクトの最初の姿です。そして信じるための一つの方法です。OK、こうして見えるようになったから、あとは予算をたてて、実現するためのクライアントを探してこないと、ってね。

みなさん、私のドローイングとその結果がすごく似ているので驚きます。比率や材料や色という観点ではオリジナルのドローイングとは少しずつ異なっているけれど、骨子のアイディアは同じです。

ー デザインの思考プロセスについて、あなたのリサーチドローイングはとてもユニークだと思います。どのようにそういう方法に至ったか、説明してもらえますか?

このリサーチドローイングという方法を15年前から続けています。リサーチを視覚化したかったのです。プロセスはオーガニックなものです。まず、一枚の紙に分析的な要素(写真、構造的なディテール、ダイアグラム、テキストからの断片)そして感覚的な要素(質感、出典、形など)を含めていきます。この作業は本当に自由でなにをやってもいい。この段階ではデザインプロポーザルだけではなくて、プロジェクトのあらゆる側面について考えたいのです。だからすべての側面のきっかけを探すことが大切なのです。技術的なことに関する答えと形と色、そしてデザインまで。

このリサーチドローイングは次第に拡大していきます。私はプロジェクトの時間を反映していくようにリサーチをしたいのです。それぞれの要素の関係性を描きこんでいると、繰り返し現れることがあります。ある意味、これらの要素をひとつの考え方にまとめあげることができたということです。技術的、分析的な側面と感覚的な側面をまとめあげることに特に興味があるのです。背景があってフォルムがあるというような物質の優先順位をつくるのではなくすべての側面を一緒に考えることです。

ー  あなたのドローイングはテクノロジーとファンタジーを同時に示していますね。今の状況と来るべき未来という意味で。子供でもあなたのドローイングを見て面白がると思います。つまり専門に関わる人々ではなくても、その問題と結果を理解できる。どのようにこういった表現の仕方に行き着いたのでしょうか?

 雨のように突然空から降ってきたわけではないのですよ。どんなインスピレーションも現実に起こっていることや、このリサーチフェーズ、人々にとってプロジェクトをわかりやすくしたいという意図からです。ものや空間をつうじてひとつの物語を伝えるということです。

ー あなたのプロジェクトにとって「Habitation」というのが最も大切なモチベーションであると言っていましたね。そのことについてもう少し詳しく説明してもらえますか?

私は「Habitability(居住可能性)」というのを居住可能なスペースの質という意味で使っています。人間のための居住空間を作ること、でもそれはかならずしも建物ということではありません。学生のときデザインに関する著作のなかでこの言葉によく遭遇していました。デザインや建築は世界を居住可能な場所にするための役割を果たしているということです。素晴らしい考えだと思っていましたが、そのときはその意味がよくわからなくて。これはグローバルな考え方だと思うのですがサステイナブルな世界をつくることにも密接に関係していると思います。

自然と人間の関係性という意味で解釈できるのですが、現実にはどの社会でも技術が牛耳っている。大抵、世界を居住可能な場所にするというのは、規格に沿った建物や場所をつくるということになっていきます。でもそうすると人間を環境から切り離すことになる。例えば、真夏をしのぐために室内にエアコンを効かせるようになりますが、それは技術だけで問題を解決しようとしている。世界を居住可能の場所にするためにユートピア的な考え方をしても、あまりにも実現が難しいので技術に頼ることになるのです。

デザインには世界を変える役割があると思います。その時代、社会、環境、経済の課題を反映するようなかたちで。これがデザイナーや建築家が直面している課題だと思います。つまりどうやって技術を取り入れることに自覚的になるかということです。

私たちが言う居住可能な空間というのは、機能的なことと同時に精神的な課題に答えるというものでもあります。世界を取り巻く課題やリスクに答えるために技術をどこに配置するかを考え、ちょうどよいバランスを見つけることが大切です。

ⅰTopiqueはダエロンが2003年から取り組んでいるリサーチプロジェクト。人間の居住空間のなかで自然資源をつかうことに注目したもの

ⅱパヴィリオン・デ・アルセナル(Pavillon de Arsenal)はパリの都市計画や建築に関する情報、記録、展示に関する場所。

●当日の様子 / photo : Yurika KONO